捨てられる貝殻を使った「BYKARTE業務共通ホルダー」は、いかにして生まれた? 開発担当者にインタビュー

捨てられる貝殻を使った「BYKARTE業務共通ホルダー」は、いかにして生まれた? 開発担当者にインタビュー

ホーユーが美容室向けに展開するヘアケアブランド『BYKARTE(バイカルテ)』。本ブランドで新たに開発した「シャンプー/トリートメントホルダー(以下、BYKARTE 業務共通ホルダー)」が昨年、「2024 日本パッケージングコンテスト トイレタリー包装部門賞」を受賞しました。

このホルダーには、産業廃棄物として処理されるホタテの貝殻を51%配合したプラスチックを使用。環境負荷を低減させると同時に、デザインに工夫を凝らすことで、高級感のある見た目と美容室での使い勝手の良さを両立させています。

こうした特徴を持つ「BYKARTE 業務共通ホルダー」は、果たしてどのように誕生したのでしょうか。開発エピソードやデザインに込めた想いについて、開発に携わった総合研究所の薮下裕晃さんと末田朋与さんにお話をうかがいました。

総合研究所 課長  薮下 裕晃さん

総合研究所 課長 
※2025年2月取材当時

薮下 裕晃さん

瀬戸工場で新商品立ち上げなどの生産技術業務に3年間携わった後、桜が丘工場で品質保証業務を5年経験。その後、総合研究所に異動し、プロフェショナル向け商品、生活者向け商品の包材開発に携わる。

総合研究所 係長 末田 朋与さん

総合研究所 係長
※2025年2月取材当時

末田 朋与さん

総合研究所で包材開発に従事。手がけた商品パッケージは、生活者向け商品から通信販売でのみ取り扱っている商品、美容室が使用するプロフェッショナル向け商品まで多岐にわたる。現在はプロフェッショナル向け商品の包材開発を担当。

BYKARTE業務共通ホルダーが日本パッケージコンテストで入賞

BYKARTE業務共通ホルダーが日本パッケージコンテストで入賞

BYKARTE 商品画像

BYKARTEとは

主に美容室向けに展開しているヘアケアブランドです。高補修型のサロンケアとホームケアをラインナップ。ヘアカラーや紫外線など、 日常の様々なダメージで失われる髪の主要成分である「シスチン」を、ホーユーの独自技術により毛髪内に補充し留めることで、潤い、艶やかな「素髪のような質感」へ導き、理想の髪を維持します。


———
「2024 日本パッケージングコンテスト トイレタリー包装部門賞」を受賞したのは、どのようなパッケージなのでしょうか

末田さん
今回受賞したのは、シャンプーとトリートメントのパウチ容器を安定してお使いいただくためのホルダーです。従来はプラスチックやステンレスを原材料として製造していましたが、今回は産業廃棄物として処理されるホタテの貝殻をプラスチックに51%配合することで、環境負荷を下げられるものを開発しました

BYKARTE業務共通ホルダー

薮下さん
美容室から要望を多くいただいていた「1300mL大容量パウチ」でも安定してお使いいただけるよう設計したほか、見た目の質感や機能性にもかなりこだわりました。

末田さん
BYKARTEを導入してくださっている美容室は高級なお店も多いため、ホルダーのデザインは、無機質で機械的な、使い捨て資材感のある見た目ではなく、しっとりと丸みがありBYKARTEの世界観に合うものを意識しました。また、シャンプー台の付近に幅をとらずに置けるよう、ホルダーにパウチをセットする向きや、ラベルを貼る位置にもひと工夫を加えました。

総合研究所 薮下さん、 末田 さん

———受賞に際しては、どのような部分が評価されたのですか

末田さん
事務局の方からいただいたフィードバックコメントによれば、私たちがコンテストに応募した際にアピールした3つのポイントを高いレベルで実現できていることが評価の対象となったようです。

薮下さん
この商品は、ホタテの貝殻を使用した環境に配慮されている新しいアイデアという点だけなく、高品質でプラスチックを感じさせない意匠性、サロン様(お客様)の機能性を充分考えた利便性が高い商品だと思っています。

薮下さん
審査委員の方々もそれら3つのポイントに価値を感じてくださって、改めて今回のホルダーの可能性を感じることができました。

———受賞の知らせを聞いたときの気持ちは、いかがでしたか?

末田さん
あまりに驚いて現実味がありませんでした。とても嬉しくて、その場にいた同僚と受賞を喜び合ったのを覚えています。

薮下さん
実は今回のコンテストは、部門としておよそ10年ぶりに申し込んだものでした。久しぶりにエントリーしたコンテストで受賞できたこともあり、私としても本当に嬉しかったです。

総合研究所 薮下さん

なぜ貝殻由来のホルダー開発に至ったのか

———ホタテの貝殻を原材料として選択したのは、どうしてですか

末田さん
今回技術協力をしてくださった、株式会社第一精工舎との出会いが大きなきっかけでした。

薮下さん
今回のホルダーを着想する発端となった金属や廃材などなど、多様な素材を混ぜて新しい特徴を持ったプラスチックをつくることができる「フリーブレンド工法」を知り、石油由来原料の使用を抑制するという点で、非常におもしろい技術だと感じました。

末田さん
さまざまな素材を配合したプラスチック容器を試作いただきましたが、ホタテの貝殻を混ぜた材質がBYKARTEの世界観に最も合うと感じました。例えば、ホルダーの表面をよく見ていただくと、小さな粒のような模様が入っているのが分かります。こうした質感は、貝殻由来のプラスチックならではです。

何度も試作を繰り返した試作品

薮下さん
色味も大きな決め手になりました。BYKARTEではベージュや茶色をパッケージのカラーとして選択することが多いのですが、ホタテの貝殻を使用すると、プラスチックにほんのりとミルクティーのような色味がつきます。この風合いがBYKARTEの世界観とよく合うんです。

———ホタテの貝殻を使用したことで、環境にどのような影響があるのかも改めて教えてください

末田さん
ホタテの貝殻は、実はほとんどが産業廃棄物として捨てられています。捨てるといっても、焼却処分などではなく、堆積場に山積みにされているのが現状です。
国土交通省によれば、2019年度にはその量が約17万トンにも達したと推計されており、ホタテの貝殻のリサイクルや再資源化は国内で大きな課題となっています。今回開発したホルダーは、そうしたホタテの貝殻という廃棄物の削減に微力ながら貢献しています。
また、石油由来原料の使用量を従来の半分に抑えることで、CO2の排出削減にも貢献しています。

開発秘話 商品化に至るまで何度も試行錯誤を繰り返した

―――開発にあたって、最も苦労したことは何でしたか

末田さん
ホタテ由来のプラスチックが持つ特性を加味しつつ、美容室で使いやすい形状をつくることが難しかったです。今回の開発では私がデザイナーの役割も担ったのですが、当初は美容室で置きたくなるような、洗練されたデザインのみを追求して形状を設計していました。

薮下さん
末田にはBYKARTE専用パウチの開発も担当してもらっていたので、バランスをとりながら、形状の落としどころを探るのが大変だったと記憶しています。

商品化に至るまで何度も試作品を制作し試行錯誤を繰り返した

  • 商品化に至るまで何度も試作品を制作し試行錯誤を繰り返した

———パウチも今回、独自に開発したものなのですね

薮下さん
パウチで理想の形状を実現できたかと思えば、ホルダーのほうでぴったりとハマる形状が作れなかったり、ホルダーのほうで理想の形状ができたと思えば、パウチのほうで制約が見つかったり……と、最終的に美容室で使用していただく上で最も価値を提供できるデザインを見つけるまでには何度も繰り返し検討を重ねました。社内にある3D-CADと3Dプリンターを駆使して試作品を何回も作り直し、ようやくたどり着いたのが、今回の後ろからパウチを出し入れ可能な、縦長スリムな形状なんです。

総合研究所 薮下さん、末田さん

末田さん
試作は10回以上にも及んでいると思います。デザインの完成までに2〜3カ月はかかっていますね。パウチもホルダーも、デザイン面で試行錯誤を繰り返す中で、徐々に発売日が近づいてきて、このままでは生産ができないのではないかと、本当におなかが痛くなったのをよく覚えています…。(笑)

美容室で使う様子をイメージしながら、1年以上の時間をかけて、ひとつひとつデザインに工夫を凝らして開発していきました。いろいろと考えを巡らせて完成したデザインが、お客様のサロンを彩り、日々の仕事の助けになっているのであれば、これほど嬉しいことはありません。

薮下さん
でも、末田は部内で目標に掲げている「顧客価値の創出」という観点で最高のホルダーを生み出してくれたと思います。
苦労を乗り越えて最適解を見出してくれたことに、本当に感謝しています

今後について

総合研究所 薮下さん

———今後の展望や目標をお聞かせください

薮下さん
部署としては、これからも引き続き、お客様が満足できる商品やサービス、技術を提供し続けることを目指して、常にお客様目線を大切にしながらパッケージの開発に取り組んでいきたいと考えています。これからも、環境に配慮した付加価値の高いパッケージを実現していきます

末田さん
これからも、美容室の皆様やサロンを利用しているエンドユーザーの皆様に喜んでいただけるような包材開発に力を注いでいきたいと思っています。
使いやすさに着目するのはもちろんですが、サロンの雰囲気を彩り、エンドユーザーの皆様の気分を盛り上げられるような包材を生み出せるような開発をしていきたいです。
そうすることで、ホーユーの「新しい価値を生み出し、世界中のお客様の日常に彩りを」という顧客彩りビジョンの実現に近づくのかなと思います。

また、今回のホルダー開発の中で商品企画担当の仲嶋さんと密なコミュニケーションをとれたことで、新たな視点を得ることにつながったと感じています。他部門との連携によって、お客様に新たな価値を生み出すことができる。
この気づきを活かして、これからもお客様により良い商品、パッケージを提供できるように努力を続けていきたいです。

商品企画担当者からもコメントをいただきました

プロフェッショナルカンパニーマーケティング室商品企画 仲嶋 友範さん

プロフェッショナルカンパニーマーケティング室商品企画
※2025年2月取材当時

仲嶋 友範さん

薮下さん、末田さんには、BYKARTEのブランド立ち上げ当初から、包材開発にご協力いただいていました。「前例がない」という言葉をNGとするルールのもと進めた挑戦的な開発プロジェクトの中で、時には難しいお願いをすることもありましたが、より良い商品開発のため、さまざまなアイデアを出していただき、BYKARTEを認知されるブランドへと導いてくださいました。そんなお二人だからこそ、ブランドイメージだけでなく、サロン現場での使用シーンにも寄り添い、環境にも配慮した包材開発を進めていただけたのだと思います。その成果が今回の受賞につながったことを大変喜ばしく思います。



あとがき
取材では、業務共通ホルダーの実物を触らせてもらいました。キラキラとした砂粒のような模様が入り、なめらかな手触りのホルダー。特別な加工をしたのかと思いきや、ホタテの貝殻を素材としたことで、特有の質感が生まれているとは驚きでした。末田さんの商品に対するわが子をめでるような愛の深さを感じました。商品化に至るまでに大変なご苦労があったのだと、ひしひしと感じました。

環境にも優しく、お客様にも優しく、これこそがホーユーが目指す姿なのかもしれません。ホーユーでは、2030年までにありたい姿として「イキイキ・ワクワクビジョン2030」を策定しています。ホーユーは2030年までにCO2排出量を2021年比で42%削減する目標を掲げ、環境保全に力を入れています。

関連記事

ページ上部へ