ヘアカラーの染料が毛髪メラニンに多く染着することを発見
ホーユーと名古屋大学との共同研究

研究・調査

ホーユー株式会社(名古屋市東区)は、名古屋大学大学院生命農学研究科の福島和彦教授らのグループとの共同研究により、ヘアカラー(酸化染毛剤)で染色された毛髪のメラニンにはその他の毛髪組織と比べより多くの染料が染着していることを発見しました。

毛髪はコルテックスの周りを何層ものキューティクルが覆っている構造で、コルテックス中には毛髪の髪色を決めているメラニン(※1)が存在しています(図1)。ヘアカラー剤の染まりや色持ちを向上させるためにはヘアカラーの染料が毛髪組織の中のどの部分によく染まっているかを知ることは重要です。これまでも、ヘアカラーの染着部位を調べる方法として毛髪横断面の光学顕微鏡観察が行われてきており、毛髪のキューティクル、コルテックスがヘアカラーの染着部位であることが確認されています(図2)。光学顕微鏡で判別できる組織レベルではヘアカラーの染料は毛髪内で一様に染着しているように見えます。しかしナノメートルオーダー(※2)の微細な毛髪組織において染料がどのように毛髪に染着しているのかを確認する手法はこれまでになく、詳細はわかっていませんでした。

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そこで今回、分析のための目印となる安定同位体で標識された(※3)酸化染料を含むヘアカラー剤で染めた毛髪の測定を最先端の分析装置である「高解像度ニ次イオン質量分析計(NanoSIMS)」(※4)により行いました。その結果、ヘアカラーで染色された毛髪のメラニンには、キューティクルやコルテックスなどの他の毛髪組織と比べて、より多くの染料が染着していることがわかり、メラニンがヘアカラーリングの重要な染着部位の1つであることが初めて明らかとなりました。
ホーユーはこの研究成果をヘアカラーの髪色をより持続させるヘアケアやヘアカラー剤の開発に積極的に活用していきます。
なお、この研究成果については、学会発表を行うとともに学術誌「Colloids and Surfaces B: Biointerfaces」の電子版に2013年1月29日付で掲載されました。

(※1) メラニン
毛髪のメラニンは卵形または球状の顆粒としてコルテックス内に点在しています。毛髪横断面で観察されるメラニンの大きさは直径で数百ナノメートルです。毛髪内に含まれるメラニンの種類やその割合、量が異なることで髪色の違いが生じます。人種間で髪色が異なるのはこのためです。
(※2) ナノメートルオーダー
1ナノメートルは10億分の1メートル(=100万分の1mm)です。日本人の毛髪の太さが約0.08mmであることから非常に小さなサイズであることがわかります。
(※3) 安定同位体と同位体標識
同じ原子番号でも質量数が異なる、すなわち中性子の数が異なる原子を互いに同位体であるといい、同位体の化学的な性質は類似しています。同位体の中でも天然に安定で存在するものを安定同位体といいます。
物質中の元素の一部をその同位体で置き換えることを同位体標識といいます。観察したい物質の同位体標識物を使用することにより同位体がその物質の目印となり、同位体の挙動を調べることによって観察したい物質の挙動を調べることが可能となります。
(※4) 高解像度ニ次イオン質量分析計(NanoSIMS)
ニ次イオン質量分析計(Secondary Ion Mass Spectrometry : SIMS)は、固体試料表面に細く絞った一次イオンビームを照射し、試料表面より放出される二次イオンを質量分析計により解析する装置です。二次イオンが検出された位置情報の記録も可能であることから、試料表面における原子や分子の分布を知ることができます。特にNanoSIMSはナノメートルオーダーという高い空間解像度で微小領域内における元素と同位体の分布状況を測定できる装置です。
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【研究成果発表の詳細】

● 学会発表

19th International Mass Spectrometry Conference (第19回国際質量分析会議) 2012年9月15日~21日

発表日 :9月17日 (PMo-182)
タイトル   :Dyeing Regions of Oxidative Hair Dyes in Human Hair Investigated by Nanoscale Secondary Ion Mass Spectrometry
発表者 :Toru Kojima et al.

● 学術論文

雑誌名 :Colloids and Surfaces B: Biointerfaces
タイトル :Dyeing regions of oxidative hair dyes in human hair investigated by nanoscale secondary ion mass spectrometry (ナノスケール二次イオン質量分析計による毛髪内の酸化染料の染色部位に関する研究)
著者 :Toru Kojima, Hiromi Yamada, Toshihiko Yamamoto, Yasuyuki Matsushita, Kazuhiko Fukushima
 [小島徹, 山田裕美, 山本敏彦(ホーユー総合研究所) 松下泰幸, 福島和彦(名古屋大学大学院生命農学研究科)]

DOI番号      

http://dx.doi.org/10.1016/j.colsurfb.2013.01.028

【研究の詳細】

1.安定同位体で標識された酸化染料による毛髪の染色

水素(1H)の安定同位体である重水素(D:Deuterium)で標識された酸化染料を含むヘアカラー剤と通常の酸化染料を含むヘアカラー剤で染色した毛髪を比較したところ、同等の染色効果が得られました。さらに染色した毛髪から抽出した抽出物の分析を行ったところ、重水素標識された酸化染料から生成した発色染料の化学構造中に重水素が維持されていることを確認しました。この結果より、発色した染料の目印として重水素が使用できることがわかりました。

2.NanoSIMSによる毛髪の分析
重水素標識された酸化染料を含むヘアカラー剤で染色した黒髪の平滑な横断面を作成し、NanoSIMS測定を行いました。その結果、毛髪横断面の全体から発色した染料由来である重水素イオンが検出され、さらに数百ナノメートルの大きさの粒子状部位から特に強く重水素イオンが検出されました(図3)。この結果はヘアカラーの染料が毛髪内で局在している部位が存在することを示しています。

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さらに重水素標識された酸化染料を含むヘアカラー剤で染色した白髪のNanoSIMS測定を行いました(図4)。その結果、毛髪横断面の全体から発色した染料由来である重水素イオンが検出されましたが、白髪では黒髪で見られたような重水素イオンが強く検出される粒子状部位はありませんでした。
黒髪と比べ白髪にはほとんどメラニンが含まれていません。また、染色した黒髪内で染料が局在している粒子のサイズと場所を確認すると、メラニンとよく一致していることがわかりました。よってこれらの結果より、染色した黒髪内で観察された染料の局在する粒子状部位がメラニンであると特定されました。

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【今後の展開】

今回の研究により、メラニンがヘアカラーリングの重要な染着部位の1つであることが明らかとなりました。この知見は染色した毛髪の髪色をより長く持続させるヘアケアやヘアカラー剤の開発に対して重要な情報であると考えられます。
当社は今後も毛髪内におけるヘアカラーやヘアケア剤の作用メカニズムに関する研究を進め、得られた知見を製品性能の向上のために積極的に活用していきます。

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