名古屋大学との共同研究により
巨大電子顕微鏡で毛髪メラニン内部の3D構造が明らかに
ヘアカラーリングによるメラニンの変化を捉えることに世界で初めて成功

研究・調査

ホーユー株式会社(名古屋市東区)は名古屋大学エコトピア科学研究所との共同研究により、毛髪の中に存在するメラニン色素の三次元構造観察と、ヘアカラーリングによるメラニンの変化を捉えることに世界で初めて成功しました。

名古屋大学エコトピア科学研究所に設置されている超高圧電子顕微鏡は、除振台、鏡筒部、100万ボルトの高電圧発生部から構成され、総重量330トンにもおよぶ巨大な電子顕微鏡です(図1)。走査透過型とよばれる最新の観察方式を採用した超高圧電子顕微鏡としては、世界で唯一の装置となります。超高圧電子顕微鏡ではナノレベルの観察ができるほかに、電子線の透過性が高いため測定物の内部が観察しやすいという特徴もあります。
毛髪の中にはメラニンとよばれる黒い色素が存在し、メラニンがないと白髪になります。従来、数々の観察手法を用いてもメラニンの内部構造や化学組成の詳細は不明でしたが、今回、超高圧電子顕微鏡を用いてメラニンの内部構造を明らかにすることに成功しました(図2)。また、ヘアカラーで髪を明るくしていくと、メラニンの外側からではなく内側から壊れていく様子も観察されました。

図1 超高圧電子顕微鏡の概略図 図2 毛髪メラニンの3D構築像
図1 超高圧電子顕微鏡の概略図 図2 毛髪メラニンの3D構築像

この研究成果は、2013年11月29日に東京で開催された第73回日本化粧品技術者会研究討論会(※1)にて発表いたしました。これらの研究成果を基に、必須アミノ酸であるスレオニンにヘアカラーの色持ちを向上させる効果が見いだされ、今後の商品開発に応用していく予定です。

<詳細>

● 研究の背景

メラニンは毛髪のほかに、皮膚、目の虹彩など体に広く存在する色素です。メラニンを含む毛髪が黒髪で(図3)、加齢やストレスなど何らかの要因でメラニンが作られなくなると白髪として生えてきます。白髪予防の点からもメラニンについては現在でも広く研究されていますが、白髪になる原因についてはまだ十分に分かっていないのが現状です。さらに、メラニンはヘアカラー(白髪染め、おしゃれ染め)の染まりにも重要な役割を担う一方で、ヘアカラーの染毛性(※2)や毛髪のダメージ(※3)にも関わっていることが近年明らかになっています。しかし、メラニンは直径1㎛(10-6 m)以下と極めて小さい上にあらゆる溶媒に溶けないため、構造観察や組成分析は非常に困難でした。電子顕微鏡においても電子線がほとんど透過しないため、メラニンは黒く映るだけで内部構造までは確認できませんでした(図4)。

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図3 黒髪の横断面像
(無数の黒い点がメラニン)
図4 一般的な電子顕微鏡によるメラニン像


● ヘアカラーのしくみ

一般的なヘアカラーは、「染色」と「脱色」の二つの作用を有しています。染色とは髪にさまざまな色を入れる作用で、脱色(ブリーチ)とは毛髪のメラニンを一部壊して髪を明るくする作用です。たとえば黒髪を赤茶色に染めようとする場合は、絵の具と同じように黒色に赤茶色を混ぜても赤茶色にはなりませんので、脱色作用で黒髪を茶色まで明るくすると同時に、赤い色を入れて赤茶色の髪色に仕上げます。 このように、日本人のような黒髪をさまざまな髪色にするためには、ヘアカラーに含まれる脱色作用、つまりメラニンを壊して髪色を適度に明るくするという作用が重要となってきます。


● 超高圧電子顕微鏡

正式名称は「反応科学超高圧走査透過電子顕微鏡」(日本電子製JEM-1000K RS)で、除振台(地下1階)、鏡筒部および制御部(地上1階)、100万ボルトの高電圧発生部(2階)から構成される高さ10メートル、総重量330トンにもおよぶ巨大な電子顕微鏡です(図1)。物質にきわめて波長の短い電子線を照射し、透過または散乱した粒子を検出して微細な構造を画像化します。電子線の加速電圧が高いため、1ナノメートル(10-9 m)以下という物質を構成する原子まで観察できる分解能があり、燃料電池、光触媒など世界最先端の研究に利用されています。しかし、毛髪のような生体試料では強い電子線を照射すると試料自体が壊れてしまうため、電子線を走査させることにより試料への負荷を減らしたり、電子線を適度に透過させてエネルギーを逃がすような厚さの試料を作製したりするなどの工夫も必要となります。

● 実験方法

毛髪をエポキシ樹脂で固定したのちにダイヤモンドナイフできわめて平滑な毛髪の横断面切片を作製し、電子染色等の処理を施して超高圧電子顕微鏡で観察しました。毛髪切片を-70度から+70度まで2度ずつ傾けながら約70枚の観察像を取得し、コンピュータ上でメラニンの三次元像を構築しました。

● 結果

メラニンには、球状の部分と毛髪の縦方向に規則性をもった構造を有していることが分かりました(図2)。ヘアカラーで少し明るくした程度の毛髪ではメラニンの構造はあまり変化しませんでしたが、より明るくした毛髪ではメラニンの外側からではなく、内部から先に壊れていくという意外な様子が観察されました(図5)。

図5 メラニンの分解過程(3D構築像)
図5 メラニンの分解過程(3D構築像)

● 今後の展開

最近当社が発表した研究からヘアカラーの染料はメラニンに多く染まることが分かっており(※2)、脱色作用によりメラニンが壊れると染料も流出し、ヘアカラーの色持ちに影響することが予想されます。アミノ酸の一種であるスレオニンにその染料が毛髪外へ流出するのを抑制して色持ちを向上させる効果も見いだされ、今後の商品開発に応用していく予定です。

<参考>
※1 研究発表の詳細

学会名 第73回日本化粧品技術者会研究討論会
日時 2013年11月29日(金)、東京
タイトル     超高圧電子顕微鏡を利用した毛髪微細構造の観察
発表者 ホーユー株式会社 総合研究所 今井健仁ほか
名古屋大学エコトピア科学研究所 超高圧電子顕微鏡施設 荒井重勇特任准教授ほか


※2 発表論文

T. Kojima et al., Dyeing regions of oxidative hair dyes in human hair investigated by nanoscale secondary ion mass spectrometry, Colloids Surf. B, 106, 140-144(2013)
(ナノスケール二次イオン質量分析計を用いた毛髪内の酸化染料の染色部位に関する研究)

※3 発表論文

T. Imai, The influence of hair bleach on the ultrastructure of human hair with special reference to hair damage, Okajimas Folia Anat. Jpn., 88, 1(2011)
(ヘアブリーチによる毛髪微細構造への影響)

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